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東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)198号 判決

東京都千代田区丸の内3丁目1番1号

原告

東洋郵船株式会社

右代表者代表取締役

横井英樹

右訴訟代理人弁護士

浅見敏夫

横井治夫

東京都千代田区神田錦町3丁目3番地

被告

麹町税務署長 中山君雄

右訴訟代理人弁護士

和田衛

右指定代理人

合田かつ子

外4名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和57年12月24日付けでした昭和54年1月から昭和56年12月までの各月分の源泉所得税納税告知処分(ただし,当初は別表一の「第一次告知処分」欄に記載のとおりであったが,その後異議決定により一部取り消され,同表の「異議決定後」欄に記載のものとなった。)のうち同表の「自認額」欄に記載の各金額を超える部分及び不納付加算税賦課決定(ただし,当初は別表二の「第一次賦課決定」欄に記載のとおりであったが,その後異議決定により一部取り消され,同表の「異議決定後」欄に記載のものとなった。)のうち右取消しを求める源泉所得税額に対応するものを取り消す。

2  被告が原告の昭和56年1月1日から同年12月31日までの事業年度の法人税について昭和57年12月24日付けでした更正及び過少申告加算税賦課決定のうち,所得金額330,130,812円,納付すべき税額133,558,800円,過少申告加算税額6,778,400円を超える部分を取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  源泉所得税関係

(一) 被告は,原告に対し,昭和57年12月24日付けで,昭和54年1月から昭和56年12月(以下「本件期間」という。)までの各月分に係る別表一の「第一次告知処分」欄に記載の金額の源泉所得税納税告知処分並びに別表二の「第一次賦課決定」欄に記載の金額の不納付加算税及び重加算税の各賦課決定をした。

(二) 原告は,被告に対し,昭和58年2月22日,右各処分につき異議申立てをしたところ,被告は,同年5月24日付けで,源泉所得税納税告知処分については別表一の「異議決定後」欄に記載の金額と「第一次告知処分」欄に記載の金額との差額,不納付加算税賦課決定については別表二の「異議決定後」欄に記載の金額と「第一次賦課決定」欄に記載の金額との差額分につき取消しをし,その余を棄却する旨の異議決定をした(以下,右の異議決定により一部取り消された後の源泉所得税納税告知処分を「本件告知処分」といい,同じく取り消された後の不納付加算税賦課決定を「本件不納付加算税賦課決定」という。)。

(三) 被告は,原告に対し,昭和58年5月25日付けで,別表一の「第二次告知処分」欄に記載の金額の源泉所得税納税告知及び別表二の「第二次賦課決定」欄に記載の金額の不納付加算税賦課決定をした(以下,右の源泉所得税納税告知処分を「第二次告知処分」といい,右の不納付加算税賦課決定を「第二次不納付加算税賦課決定」という。)。

(四) 原告は,国税不服審判所長に対し,昭和58年6月23日,本件告知処分及び本件不納付加算税賦課決定について審査請求したところ,同所長は,昭和60年8月28日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決書謄本は同年9月20日ころ原告に送達された。

(五) しかし,原告が納付すべき本件期間の各月における源泉所得税額は別表一の「自認額」欄に記載の金額(このほかに第二次告知処分に係る源泉所得税額も全額認める。)であり,これを超える部分は役員報酬を過大に認定して行った違法があるから,本件告知処分のうち右の超過部分(本件告知処分に係る源泉所得税額から自認額を差し引いた金額)及びこれに対応する部分の本件不納付加算税賦課決定の取消しを求める。

2  法人税関係

(一) 原告は,昭和57年3月2日,原告の昭和56年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき,所得金額0円,還付法人税額5,096,198円とする確定申告をした。

(二) 被告は,昭和57年12月24日付けで,原告の本件事業年度の法人税につき,所得金額を448,551,155円,法人税額を183,295,200円とする更正,過少申告加算税額を9,265,200円とする過少申告加算税賦課決定及び重加算税額を926,100円とする重加算税賦課決定をした(以下,右更正を「本件更正」といい,右過少申告加算税賦課決定を「本件過少申告加算税賦課決定」という。)。

(三) 原告は,国税不服審判所長に対し,昭和58年2月22日,本件更正及び本件過少申告加算税賦課決定について審査請求したが,同所長は,昭和60年8月28日付けで右審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決書謄本は同年9月20日ころ原告に送達された。

(四) しかし,本件更正は,原告の所得金額を過大に認定した違法があり,請求の趣旨2に記載の所得金額及び法人税額を超える部分の本件更正及びこれに対する同記載の過少申告加算税額を超える部分の本件過少申告加算税賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の(一)ないし(四)の事実は認め,(五)は争う。

2  同2の(一)ないし(三)の事実は認め,(四)は争う。

三  被告の主張

1  源泉所得税関係

(一) 原告が納付すべき本件期間中の横井邦彦,横井裕彦,横井路子及び横井義信に対する役員報酬に係る源泉所得税額は,別表四の右各人の欄に記載のとおりである。

(二) 横井英樹に対する役員報酬に係る源泉所得税

(1) 原告は,横井英樹に対し,仮払金及び前渡金の増加,並びに仮受金の減少(負債勘定である仮受金の減少という形で金員を支出する経理方法であり,本来ならば仮払金として経理処理すべきものをいう。以下,右三者を総称して「本件仮払金等」という。)という形で金員を支出していたが,本件期間中のその金額は別表三に記載のとおりである。

(2) 右金員の支出は,①原告の経理担当者が横井英樹からの指示に基づき,その使途及び内容を知らされないままに,指示された金額の現金を同人に支出し,又は小切手若しくは手形を振り出して渡すという方法,②同人が所持していた原告の小切手帳及び小切手振出専用の印章を使用して自ら随時小切手を振り出すという方法で行われていた。

(3) 原告の経理担当者は,右の方法による横井英樹に対する支払があった後,同人から領収書等を交付され,又は小切手の支払銀行から送付された原告に係る当該銀行の当座預金元帳の写し等により,その支払があったことを知らされ,その使途及び内容の判明したものは該当する勘定科目に経理処理し,使途及び内容の判明しない金額については横井英樹に対する仮払金等として経理処理を行っていたものであるが,本件仮払金等は,原告の業務上の支出に充てられたことはなかったので,本件仮払金等は横井英樹に対する貸付金と認められるものである。

(4) 法人税法上,法人が金銭を無利息で貸し付け,通常収受すべき利息を収受しないで,その貸付先が通常支払うべき利息の支払を免れている場合には,法人はその貸付先に対して通常収受される利息相当額の経済的利益を与えたものと扱われる。

(5) 原告は,右(1)のとおり,横井英樹に対して本件仮払金等を支出し,右金員は同人に対する貸付金と認められるものであるが,同人は,右金員に対する利息を原告に支払っておらず,右利息相当額の負担を免れているところ,これは,原告が横井英樹に対して本件仮払金等に係る利息相当額の経済的利益を与えていたことになり,右経済的利益の供与は,原告が横井英樹に対して同額の役員報酬を支給したのと同じ経済的効果を与えたものである。

(6) 原告が貸付金に対して通常収受する利息の割合は年8%を下らない。

(7) 本件期間中の横井英樹に係る役員報酬額は,別表五の「役員報酬支給金額」欄の「認定利息」欄に記載の金額(認定利息の算定方式は,本件仮払金等の額に年8%の利率を乗じたものであるが,同一年中に本件仮払金等の額の増減がある場合は,各月ごとに算定した利息相当額を認定利息とし,同一年中に本件仮払金等の額に異動がない場合は,当該年に発生する利息相当額を12等分したもの(ただし,余りが出る場合は,最終月から順に余りの金額に満つるまで各月1円ずつ割り当てる。)を認定利息とする方式である。)及び「その他」欄に記載の金額の合計(同「合計」欄に記載のもの)が各月の役員報酬額であるところ,これに対する源泉所得税額は同表「③に対する所得税額」欄に記載の金額となり,これに同表の「⑤に対する所得税額」欄に記載の役員賞与認定額に対する源泉所得税額を加算したものから同表の「納付済所得税額」欄に記載の金額を差し引いた同表の「差引納付漏れ所得税額」欄に記載の金額(右金額が別表四の「横井英樹に対する税額」欄の金額となる。)が,原告が納付すべき本件期間中の横井英樹に対する役員報酬等に係る源泉所得税額である。

(三) 本件告知処分の適法性

右(一),(二)のとおり,原告が納付すべき本件期間中の源泉所得税額は,別表一の「告知額合計」欄に記載の金額であり,右金額から第二次告知処分に係る源泉所得税額を除いた金額と源泉所得税額とが同額である本件告知処分は適法である。

(四) 本件不納付加算税賦課決定の適法性

本件告知処分により原告が新たに納付すべきこととなった各月の源泉所得税額のうち重加算税賦課決定の基礎とした金額を除く金額に対し,国税通則法(ただし,昭和59年法律第5号による改正前のもの。以下同じ。)67条1項の規定に基づき100分の10の割合を乗じて算出した各月の不納付加算税の額は別表二の「異議決定後」欄に記載の金額となるところ,不納付加算税額がこれと同額である本件不納付加算税賦課決定は適法である。

2  法人税関係

(一) 原告はホテル及び娯楽場等を経営する同族会社である。

(二) 本件事業年度の所得金額

(1) 申告所得金額 0円

(2) 加算項目

①給料手当否認 21,539,128円

②通信費否認 863,682円

③消耗品費否認 5,578,300円

④水道光熱費否認 2,587,156円

⑤修繕費否認 2,667,000円

⑥租税公課否認 222,556,630円

⑦支払利息否認 4,931,822円

⑧管理費否認 1,006,430円

⑨雑費否認 9,000,000円

⑩賃借料否認 1,500,000円

⑪福利厚生費否認 500,000円

⑫旅費交通費否認 885,200円

⑬支払手数料否認 3,500,000円

⑭諸会費否認 85,000円

⑮減価償却費超過額否認 5,299,055円

⑯仕入額否認 1,957,400円

⑰有価証券評価損否認 125,000,000円

⑱固定資産除却損否認 33,081,947円

⑲受取家賃計上漏れ 35,000,000円

⑳売上計上漏れ 600,000円

雑収入計上漏れ 2,343,881円

受取利息計上漏れ 173,474,722円

(Ⅰ)横井邦彦に係る受取利息 1,320,497円

(Ⅱ)横井裕彦に係る受取利息 741,360円

(Ⅲ)横井路子に係る受取利息 464,820円

(Ⅳ)横井英樹に係る受取利息 171,188,045円

本件事業年度期首現在の本件仮払金等の金額は2,139,850,573円であり,同年度中に右金額の増減がないので,原告には同年度における横井英樹に係る受取利息として,右金額に年8%の利率を乗じた171,180,045円の受取利息債権が発生した。

交際費等損金算入超過額否認 2,116,822円

過大役員報酬否認 158,160,885円

(Ⅰ)法人税法34条1項は,法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額は,所得の金額の計算上損金の額に算入しない旨規定しており,右報酬の額が不相当に高額であるか否かは法人税法施行令69条に規定するところによ て判断されるところ,原告については,その代表取締役の職務に対する対価として相当であると認められる金額(以下「適正報酬額」という。)は年額24,000,000円である。

(Ⅱ)原告は,前記1の(二)のとおり,本件事業年度において,原告の代表取締役である横井英樹に対して182,160,885円(別表五(No.3)の「役員報酬支給金額」欄の「合計」欄の「合計」の項に記載の金額)の役員報酬を支払っているが,適正報酬額の年額24,000,000円を超える部分の金額は過大な役員報酬として損金に計上することが認められず,右の過大な役員報酬部分158,160,885円は所得金額に加算されるものである。

以上加算金額の合計は814,475,060円となる。

(3) 減算項目

①支払利息認容 31,419,801円

②支払家賃戻入益否認 3,300,000円

③顧問料認容 600,000円

④役員報酬認容 194,867,197円

(Ⅰ)横井邦彦に係る役員報酬 5,903,138円

(Ⅱ)横井裕彦に係る役員報酬 6,323,024円

(Ⅲ)横井義信に係る役員報酬 15,330円

(Ⅳ)横井路子に係る役員報酬 464,820円

(Ⅴ)横井英樹に係る役員報酬 182,160,885円

(ア) 原告は,横井英樹に対し,本件事業年度中,同人の個人的費用である10,972,840円を負担し,同人に右金員相当額の経済的利益を与えたものであるから,同人に対し右金員を役員報酬として支払ったものと認められる。

(イ) 前記1の(二)及び2の(二)の(2)のの(Ⅳ)のとおり,原告は横井英樹に対し,本件事業年度において,171,188,045円(別表五(No.3)の「役員報酬支給金額」欄の「認定利息」欄の「合計」の項に記載の金額)の役員報酬を支払ったものと認められる。

⑤租税公課認容 61,324,110円

⑥繰越欠損金額認容 74,412,797円

以上減算金額の合計は365,923,905円となる。

(4) 所得金額

原告の本件事業年度の所得金額は,右(1)の金額に(2)の金額を加算し,(3)の金額を減算した448,551,155円である。

(三) 本件更正の適法性

右(二)のとおり,原告の本件事業年度の所得金額は448,551,155円であるところ,右金額は本件更正における所得金額と同額であるから,本件更正は適法である。

(四) 本件過少申告加算税賦課決定の適法性

本件更正により原告が新たに納付すべきこととなった税額188,391,300円(本件更正に係る法人税額183,295,200円に原告の申告に係る還付法人税額5,096,198円を加えたもの。ただし,国税通則法119条1項の規定により100円未満切捨て)のうち重加算税賦課決定の基礎となった税額を除く185,304,000円に対し,同法65条1項の規定を適用して100分の5の割合を乗じて算出した過少申告加算税の額9,265,200円を賦課決定した本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1(源泉所得税関係)について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)について

(1) (1)の事実は,別表三の,,,,及びの金額を除き,認める。

(2) (2)の①の事実は認める。②のうち,横井英樹が所持していたのが小切手帳であること及び小切手の振出が随時であったことは否認し,その余の事実は認める。同人は小切手用紙数枚を所持していて時折振り出すことがあったにすぎない。

(3) (3)は,原告の経理担当者の経理処理の方法が被告主張のとおりであること,本件仮払金等のうち別表三の,,,及びの金額については原告の横井英樹に対する貸付金と扱われることは認め,その余の事実は否認し,本件仮払金等のうち別表三の,,,及びの金額については,これが原告の横井英樹に対する貸付金であるとの主張は争う。

(4) (4)の主張は認める。

(5) (5)は,横井英樹が原告に対し,本件仮払金等について利息を支払っていないことは認め,主張のうち,本件仮払金等のうちの別表三の,,,及びの金額に関する部分は認め,その余の金額に関する部分は争う。

(6) (6)の事実は認める。

(7) (7)は,原告が横井英樹に対し,本件期間中,別表三の,,,及びの各金額を支給しており,それが同人に対する貸付金と扱われること,認定利息の算定方式として被告主張の方式によること,別表五の「役員報酬支給金額」欄の「その他」欄に記載の金額が横井英樹に対する役員報酬であること,原告が同表の「納税済所得税額」欄に記載の金額を納付していること,同表の「役員報酬支給金額」欄の「合計」欄に記載の各金額を前提とした場合の源泉所得税額が同表の「③に対する所得税額」欄に記載の金額となることは認め,その余の事実は否認し,主張は争う。

(8) (本件仮払金等に関する原告の反論)

別表三のの金額(以下,同表のアルファベットで区分した金額は,「の金額」というように表示する。)は,その金額が横井英樹の個人的用途に使われたものではなく,同人を介した原告の関連会社に対する貸付金が含まれており,また,同人に支出されていないものも含まれている。

の金額は,原告の関連会社である日本産業株式会社(以下「日本産業」という。)が横井英樹に対して仮払いした金額であり,これについては日本産業において横井英樹からの仮受金と相殺すべきであったものを,原告及び日本産業両社の経理を同時に担当していた者が,仮受金の減少処理をする会社を誤り,原告における仮受金の減少として経理処理したものである。

の金額は,株式会社ホテル・ニュージャパン(以下「ホテル・ニュージャパン」という。)の株主総会対策のため,原告が横井英樹ほか27名の個人名義を借りて取得した同社の株式1,500,000株の購入代金であるが,原告における経理処理上,投資有価証券勘定に計上しないで,仮勘定で処理することにしたことから,横井英樹に対する仮払金として処理したにすぎないものであり,右金額は同人に対する貸付金ではない。

及びの金額は,横井英樹に渡された合計金額95,352,010円(の金額)の小切手4通と合計金額110,000,000円(の金額)の約束手形11通,総計205,352,010円の決済資金であるが,これは,日本産業が横井英樹から融資を受け,これを仮受金として計上していたところ,原告と日本産業両社の経理を同時に担当していた者が原告において仮受けをしているものと誤解し,原告において右金額を支出し,原告の仮受金の減少として経理処理したものであるが,これは,本来日本産業に対する立替金であって,仮受金の減少としては日本産業の仮受金として処理すべきものである。

(三) (三)の主張は争う。

(四) (四)は,本件告知処分を前提とした場合の不納付加算税額の算定方法及びその算定方法によった場合の金額が別表二の「異議決定後」欄に記載の金額となることは認め,主張は争う。

2  被告の主張2(法人税関係)について

(一) (一)の事実は認める。

(二) (二)について

(1) (1)の事実は認める。

(2) (2)は,の(Ⅳ),の(Ⅱ)の事実は否認し,その余の事実は認める。

(3) (3)は,④の(Ⅴ)の(イ),⑥の事実は否認し,その余の事実は認める。

(4) (4)の事実は否認する。

(三) (三)の主張は争う。

(四) (四)は,本件更正を前提とした場合,原告が新たに納付すべきこととなる税額が188,391,300円であること,このうち重加算税賦課決定の基礎となった税額を除いた金額が185,304,000円であること,これを基礎とした過少申告知加算税額が9,265,200円であることは認め,主張は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の暫証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから,これを引用する。

理由

一  源泉所得税関係

1  請求原因1の(一)ないし(四)(本件告知処分,本件不納付加算税賦課決定,第二次告知処分,第二次不納付加算税賦課決定並びに本件告知処分及び本件不納付加算税賦課決定に対する不服申立ての経由)の事実は,当事者間に争いがない。

2  被告の主張1の(一)(横井英樹を除く役員に対する役員報酬に係る源泉所得税額)の事実は,当事者間に争いがない。

3  横井英樹に対する役員報酬に係る源泉所得税額

(一)  別表五の「役員報酬支給金額」欄の「その他」欄に記載の金額が横井英樹に対する役員報酬であることは,当事者間に争いがない。

(二)  本件仮払金等に係る役員報酬について

(1) 原告が横井英樹に対し,本件仮払金等のうち,,,,及びの金額を支出したこと,右金員は原告の横井英樹に対する貸付金として扱われるものであることは,当事者間に争いがない。

(2)  の金額について

① 成立に争いのない乙第1,第11,第16号証,原本の存在及び成立に争いのない乙第2号証の1ないし5,第3,第4,第6号証,証人槙田俊裕,同長谷川正男及び同右山昌一郎の各証言(ただし,証人長谷川正男及び同右山昌一郎の各証言中,後記措信しない部分を除く。)によれば,以下の事実が認められる。

(Ⅰ) 横井英樹は,原告のほか,その関連会社である株式会社横井産業(以下「横井産業」という。),株式会社東洋不動産(以下「東洋不動産」という。),日本産業(以下の3社をまとめて「関連会社」という。)の経営者であるが,これらの資金関係を一手に掌握し,単独で運用していた。

(Ⅱ) 横井英樹が原告の資金をその手元に取得する方法は,原告の経理担当者が横井英樹からの指示に基づき,その使途及び内容を知らされないままに,指示された金額の現金を同人に支出し又は右金額で振り出した小切手若しくは手形を交付するという方法,あるいは,同人が所持していた原告の小切手帳及び小切手振出専用の印章を使用して自ら小切手を振り出すというものであった。原告の経理担当者は,横井英樹から個々の資金の使途内容について知らされることがなく,また,後日報告を受けに行くということもなく,右の方法により横井英樹に対して支払われた金員については,その後同人から交付された領収書等又は小切手の支払銀行から送付された原告に係る当該銀行の当座預金元帳の写し等により,第三者に対する支払があったことを知らされ,その使途及び内容が原告の業務に関するものと判明したものは,その該当する勘定科目に経理処理し,使途及び内容の判明しないものについては,横井英樹に対する仮払いとして,仮払金,前渡金あるいは仮受金(の減少)に計上するという経理処理を行っていた(ただし,以上の事実のうち,原告の経理担当者を介する横井英樹の資金の取得の方法及び横井英樹に支払われた金員に関する原告の経理担当者の経理処理の方法は,当事者間に争いがない。)。

(Ⅲ) 原告が右(Ⅱ)の形態で横井英樹に仮払いした金額のうち,同人関係の個人的用途に充てられたものと認められるものについては,その計算を容易にするため,特に同人のイニシャルを使用したH・Y勘定が設けられ,同勘定に計上されていた。しかし,期末においても仮払金の殆どが精算されないまま残り,また,H・Y勘定に計上されたものについては,期末毎にその期末のH・Y勘定の全部を仮払金勘定に振り替えるという経理処理が行われていた。

(Ⅳ) 原告は,昭和51年に東京国税局による法人税調査を受け,横井英樹に関する貸付金,仮払金,仮受金の経理処理について不明瞭な点や不備な点がある旨指摘されたのに対し,昭和52年1月27日付けの念書と題する書面(乙第1号証)を提出し,右指摘された点を解明して,同人に対する債権債務関係を明確にすることを約束した。原告は,昭和57年5月に本件更正に係る法人調査が行われた当時,右約束に従って昭和53年12月期までの本件仮払金等を整理し終わり(以下,右整理を「本件整理」という。),原告の経理担当者であった長谷川正男は東京国税局の調査担当官槙田俊裕に対し,本件整理の結果について別に作成した仮払金勘定内訳書等に基づき説明を行った。

(Ⅴ) 原告が行った本件整理の内容は,それまでの仮払金(H・Y勘定を含む。)の累積額4,182,480,565円から,関連会社分の資産負債勘定と仮払金累計額とを整理した上で,関連会社に対する業務上の支出であると判断されたもの及び正規に処理すべき勘定が判明したものを控除した後の3,867,520,802円と,横井英樹からの仮受金の累積額3,180,586,171円とを昭和53年12月31日時点で相殺したというものであって,その結果,仮払金の残高は686,934,631円となった。そして,右金額について,長谷川正男から,槙田俊裕に対し,昭和53年12月期における原告の横井英樹に対する仮払金として確定した金額であり,そのことは同人も了解している旨の説明がされた。

以上の事実が認定でき,右認定に反する証人長谷川正男及び同右山昌一郎の各証言部分は前掲各証拠に照らし措信できず,その他,右認定を覆すに足りる証拠はない。

② 右認定によれば,の金額は,原告が昭和51年の法人税調査の際にした,横井英樹に係る貸付金,仮払金,仮受金等を整理し,同人に対する債権債務関係を明らかにするとの約束に基づき整理した結果残った仮払金の残額であって,その全額が同人に対する仮払金であると推認することができる。

③ ところで,原告は,の金額について,その全額が横井英樹の個人的用途に使われたものではなく,同人を介した関連会社に対する貸付金や同人に支出されていないものが含まれていると主張し,証人長谷川正男及び同右山昌一郎の各証言中には,右主張に沿う部分があり,また,右金額には内訳未判明のものが含まれており,その全額が横井英樹に対する仮払金であるということができないとの証言部分がある。

しかし,右①に認定したとおり,右金額は,原告が昭和51年の法人税調査の際に約束した横井英樹に対する貸付金,仮払金,仮受金等の整理を行った結果の金額であるが,その整理には約6年間という相当長期の期間を費やして行っていること,その整理内容は,昭和53年12月期までに同人に支出された本件仮払金等の中から原告の業務に関する支出であると認められる関連会社に対する支出及びその他正規に処理すべき勘定が判明したものを除くというものであったこと,仮払金勘定は,現金等が支出された場合に,その時点で処理すべき勘定科目や金額が確定していないときに一時的に処理する仮の勘定であるところ,原告の業務に関連して支出されたものであれば,それが長期間処理すべき相手方勘定に振り替えられずにいることは一般的に考えられないことからすると,前記各証人の証言部分はにわかに措信できず,原告の右主張は採用できない。

④ 右③以外に右②の推認を覆えすに足りる事情は認め難いので,の金額は原告の横井英樹に対する仮払金であるといって差し支えないところ,右仮払金の性格について検討するに,の金額の元となる本件整理前の本件仮払金等は,それまでの期末毎にH・Y勘定の金額が仮払金勘定に振り替えられて累積したもの及びH・Y勘定から振り替えられたもの以外の仮払金からなるが,H・Y勘定に経理処理される仮払金は同人の個人的用途に使用されたものであり・同人が返還義務を負うものと考えられるから,同人に対する貸金的性格を有するものということができ,また,後者の仮払金については,本件整理によって非個人的な金額は排除された後のものであることは右①で認定したとおりであるから,右金員の全部又はその一部につき,なお,横井英樹によって業務に関連した用途に充てられたというような特別の事情がない限り,同人は右金員全部の返還義務を負うものであるといえるところ,右特別の事情を認めるに足りる証拠はないことからすると,やはり貸金的性格を有するものということができるので,の金額は,その全額が実質的に同人に対する貸付金であると認められる。

(3)  の金額について

① 前掲乙第16号証,成立に争いのない甲第3号証,原本の存在及び成立に争いのない乙第5,第7号証,証人槙田俊裕,同長谷川正男の各証言(ただし,証人長谷川正男の証言中,後記措信しない部分を除く。)によれば,以下の事実が認められる。

(Ⅰ) 日本産業は,昭和53年2月1日付けで,横井裕彦及び菱田房子に係る昭和52年分の固定資産税の支払いにつき,それぞれ427,070円及び379,970円,合計807,040円を横井英樹関係の個人的用途に充てられる金員として仮払いして仮払金勘定に計上し,同年12月31日付けで右金額につき原告に対する債権を処理する勘定科目である東洋郵船債権勘定に振替経理した。原告は,日本産業の右経理処理に対応して,同日付けで右金額を日本産業債務勘定に計上した上,さらに仮受金勘定の借方に振替経理した。

(Ⅱ) 本件更正に係る法人税調査の際,長谷川正男から調査担当官の槙田俊裕に対し,右(Ⅰ)の振替経理について,仮受金勘定内訳書等の提出と併せて説明があった。その説明内容は,右経理処理は本件整理の後に行ったものであり,横井英樹からの仮受金が本件整理により全額相殺する経理処理がされた後に,同人に対して金員の支出があったことを意味する同人に係る仮受金勘定科目の借方に経理処理(仮受金の減少)されたため,仮受金勘定がマイナス残高となったものであるが,右金額はその実質は同人に対する仮払金であるというものであった。

以上の事実が認められ,右認定に反する証人長谷川正男の証言部分は前掲各証拠に照らし採用できず,その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

② 右①の認定によれば,当初日本産業が仮払金として支出したの金額は,横井英樹の親族に係る固定資産税の支払いに充てられたものであるが,弁論の全趣旨によれば,横井英樹は同人の親族に関する費用等も一手に管理し,処理していたことが認められることからすると,横井英樹に対する仮払金に属するものであると認められる。そして,の金額は元々日本産業から支出されたものであるが,右①の(Ⅰ)で認定した日本産業と原告の経理処理は,その二社の間の合意で,横井英樹に対する仮払金の支出者を日本産業から原告に変更したものとみることができ,また,右①の認定によれば,右の変更は,横井英樹の了解のもとにされたものと推認することができる。したがって,原告は横井英樹に対し,仮払金を支出したのと同様の経済的効果を与えたものということができ,の金額は,実質的に同人に対する貸付金であると解して妨げない。

③ なお,原告は,横井英樹に対して仮払金を支出したことになる右事態につき,仮受金の減少(マイナス残高の発生)という経理処理をしており,右経理処理は実態を反映しないものであるが,前掲乙第16号証及び証人槙田俊裕の証言によれば,一般的にも,仮払金が多額になったときには,更に仮払金が増加することを避けるため,仮受金の減少という形式をとって支出するという方法がとられることがあり,原告においても,の金額に関する経理のほかにも,本来ならば仮払金勘定に計上して支出すべき金員について仮受金勘定を通して支出する経理処理をしたことがあることが認められることからすると,の金額に関して前記認定のような経理処理がとられていることによって右②の判断が左右されるものではない。

④ 原告は,の金額につき,日本産業の横井英樹に対する仮払金であるから,日本産業において横井英樹からの仮受金と相殺すべきところを,経理担当者が仮受金の減少処理をする会社を誤り,原告の仮受金の減少として処理したものであると主張し,証人長谷川正男の証言中には右主張に沿う部分がある。

しかし,右②で認定の,当初日本産業から支出されたの金額についての日本産業及び原告の経理処理は,そこで述べたように日本産業と原告との間の合意と横井英樹の了解がある以上,あながち誤った処理ということはできない。したがって,同証人の右証言部分はにわかに措信できず,他に右原告の主張を肯認するに足りる証拠はない。

(4)  の金額について

① 前掲乙第16号証,成立に争いのない乙第14,第21,第22号証,原本の存在及び成立に争いのない甲第4号証,乙第12号証,第17ないし第20号証,証人槙田俊裕,同長谷川正男の各証言によれば,以下の事実が認められる。

(Ⅰ) 横井英樹は,昭和54年3年29日,大日本製糖株式会社との間で,同社が所有するホテル・ニュージャパンの株式10,000,000株を譲り受ける旨の株式売買契約を締結した。右契約に係るホテル・ニュージャパンの株式1,500,000株は,700,000株を横井英樹名義に,800,000株を合計27名の個人名義にそれぞれ書き換えられ(以下,右1,500,000株を「個人名義株」という。),右1,500,000株の取得代金750,000,000円の支払いに関し,原告から横井英樹に対して同月31日付けで右金額が仮払いされ,それがH・Y勘定に計上された。また,残り8,500,000株は,4,000,000株が横井産業に,4,000,000株が日本産業に,500,000株が原告にそれぞれ名義が書き換えられ(以下,原告名義に書き換えられた500,000株を「原告名義株」といい,個人名義株と合わせた2,000,000株を「本件株式」という。),原告名義株については,同日付けでその取得代金250,000,000円が原告の投資有価証券勘定に計上されている。

(Ⅱ) 個人名義株の名義人とされた者のうち,横井英樹以外の者はその取得代金を支払っておらず,また,株主名簿に塔載されている右各人の住所はいずれも横井英樹の住所地となっており,同人の親族以外の者に関する株主票に押印されている印影の中には横井名義のものがあり,それらはいずれも同一の印章によるものである。

(Ⅲ) 本件株式は,関連会社の借入金の担保として取引銀行に差し入れられているが,個人名義株に係る担保預り明細あるいは担保品受渡証の宛て先はいずれも横井英樹個人になっている。また,横井英樹は,個人名義株のうち横井英樹名義以外の500,000株につき,担保差し入れ先の株式会社大阪銀行東京支店に対し,同人の所有に帰属するものである旨の念書を提出している。

(Ⅳ) 原告の資産勘定である投資有価証券勘定には,昭和54年以来,本件株式のうち原告名義株の500,000株だけが計上されており,昭和57年2月にホテル・ニュージャパンのホテル火災に起因して原告が行ったホテル・ニュージャパン株式の評価損計上においては,原告名義株の500,000株のみが評価損の対象とされ,個人名義株は本件更正に係る法人税調査の時点においても,原告の投資有価証券勘定に計上されておらず,また,評価損の対象にもされていない。

以上の事実が認められ,右認定を覆すに足りる証拠はない。

② 右認定によれば,個人名義株はその全部が横井英樹個人の所有に帰属するものと推認することができ,原告が同人に対し仮払いした右株式取得代金750,000,000円は,原告の業務に関する金員ではなく,同人個人の株式取得代金に充てるために支出された個人的用途の金員であって,同人は右金員を返還する義務があるというべきであるから,右仮払金は同人に対する貸付金であるといって差し支えない。

③ 原告は,の金額について,個人名義株も原告が取得したものであり,その取得代金は横井英樹に対する貸付金ではなく,右株式について同人ほか27名の名義を借りたのはホテル・ニュージャパンの株主総会対策のためであると主張し,証人右山昌一郎は右主張に沿う証言をし,成立に争いのない甲第5号証,第9ないし第12号証及び右証言によれば,右の株主総会対策の必要がなくなった後の昭和57月11月16日に原告の臨時株主総会を開催し,個人名義株が原告の所有に帰属することを確認し,横井英樹に対する仮払金勘定に計上していた右株式の取得代金750,000,000円を投資有価証券勘定に振り替える旨経理処理を訂正することを決議し,同日付けでその旨の経理処理をしていることが認められる。

しかし,ホテル・ニュージャパンの株主総会対策として個人名義株を作ったという主張が直ちに合理性のないものとはいえないとしても,原告内部において右株式を投資有価証券勘定に計上することは何ら差し支えないことであること,前掲乙第22号証によれば,原告が個人名義株を作ることにしたホテル・ニュージャパンの株主総会対策の必要は,同社の昭和54年5月28日の臨時株主総会の終了により消滅したと認められる一方,その後,原告は,右株式について経理処理を訂正した昭和57年11月までの間に少なくとも2回の決算期を経ているが,その間,右株式の経理処理の訂正の必要が問題になったという事情は窺えないこと,原告が個人名義株を実質的にも所有しているものであるとすれば,原告名義株と異なる取り扱いをする理由がないにもかかわらず,前記①で認定したとおり,個人名義株は株式評価損の対象にされていないこと,個人名義株に関する経理処理の訂正手続は,本件更正に係る法人税調査が始まった後に初めてされたものであること,証人槙田俊裕の証言によれば,原告が所有する株式であるが個人名義になっている山科精工所の株式については,原告内部において投資有価証券勘定に計上されていることが認められること,以上の諸点に鑑みれば,原告が行った個人名義株の経理処理の訂正は,原告の主張に合わせるための形式的処理でしかないと解するのが相当である。したがって,原告の右主張に沿う前掲各証拠は採用できず,他に原告の右主張を肯認するに足りる証拠はない。

(5)  及びの金額について

① 前掲乙第7号証,第16号証,原本の存在及び成立に争いのない甲第7号証,証人槙田俊裕の証言及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(Ⅰ) 原告は,昭和54年8月14日付けで,横井英樹に対し,同年10月23日を支払期日とする合計金額200,000,000円の手形及び金額1,352,010円の小切手1通,金額2,000,000円の小切手2通を振り出して交付し,右支出合計205,352,010円を同人に係る仮受金勘定の借方(減少)に計上した。右各小切手は,同年8月25日に決済された。その後,右手形は,同年10月20日付けで,110,000,000円分について昭和55年2月から同年12月の各末日を支払期日とする金額10,000,000円の手形11通に書き換えられ,残り90,000,000円については同額の小切手で,原告から横井英樹に対し振り出し交付された。右小切手は昭和54年10月23日に決済され,右の書換え後の手形は,いずれもその支払期日において決済された。

(Ⅱ) 長谷川正男は担当調査官の槙田俊裕に対し,本件更正に係る法人税調査の際,右の原告の経理処理に関し,右金員の支出は実質的に横井英樹に対する仮払いであり,の金額と同様の趣旨の支出であるとの説明を行った。

以上の認定に抵触する証人長谷川正男の証言及び甲第6号証は,後記③のとおり採用できず,その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

② 右認定によれば,及びの金額は,前記の金額と同様,仮払金勘定に計上することに代えて仮受金勘定(の借方)に計上したものであって,その支出が原告の業務に関するものであるとの主張,立証はないから,実質的に横井英樹に対する貸付金であるということができる。

③ 原告は,及びの金額について,右の金額は日本産業の仮受金の減少として経理処理すべきところを,経理担当者が処理すべき会社を誤って,原告の仮受金の減少として経理処理したものであると主張し,証人長谷川正男は,日本産業は,昭和53年9月,横井英樹から同人が所有していた株式会社台糖の株式売却代金245,392,583円をもって融資を受けていたところ,原告は,右の日本産業の横井英樹に対する債務を原告の横井英樹に対する債務と間違えて,同人に対し,昭和54年8月25日付けで右債務の一部として205,352,010円を返済し,右①の(Ⅰ)の認定にある経理処理をしたものである旨証言し,また,同趣旨の内容を記載した成立に争いのない甲第6号証の長谷川正男作成のメモがある。そして,右の融資金につき,原本の存在及び成立に争いのない甲第8号証の日本産業の仮受金勘定元帳には,昭和54年9月5日の項に,摘要欄「諸口,野村証券,台糖493,700株」,貸方欄「245,840,339円」の,同年12月31日の項に,摘要欄「有価証券,9/5台糖売却分訂正」,借方欄「4,099,481円」,摘要欄「有価証券,台糖8,000」,貸方欄「3,651,725円」の各記載があり,右の金額を整理すると,日本産業が横井英樹から245,392,583円を仮受けしていることになることが認められる。

しかし,右の日本産業が横井英樹から仮受けた金額と及びの金額の合計額とは一致しておらず,両者間の金額の近似性だけから直ちに及びの金額が右仮受金の返済の一部であると認めるわけにはいかないこと,仮に右に述べた証人長谷川正男の証言及び甲第6号証に現われた事実関係が真実存在したのであれば,原告と日本産業との間,原告の立替払いに伴う新たな債権債務が計上され,その旨の経理処理が行われてしかるべきであるのに,その後もその経理処理が全く行われていないこと,昭和54年10月20日付けで書き換えられた手形は二事業年度にまたがって決済されており,この間に原告の決算期を挟んでいるが,その決算上,原告が主張する誤りについて問題として取り上げられたという事情は全く窺えないことを総合すると,右の証人長谷川正男の証言及び甲第6号証は容易に採用し難く,他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。なお,仮に横井英樹が日本産業に対して200,000,000円余の債権を有していたとしても,そのことから直ちに,原告が横井英樹に対して現実に支出した及びの金額を同人に対する仮払金とした経理処理が実態を反映しない誤ったものであるということもできない。

(6) 以上によると,本件仮払金等はすべて原告の横井英樹に対する貸付金ということができるところ,原告が本件仮払金等について横井英樹から利息等の支払を受けていないことは,当事者間に争いがない。

法人の役員に対する報酬には,役員に対する給与の支給のほか,債務の免除による利益その他の経済的な利益(ただし,賞与,退職給与と認められるものを除く。)を含むところ(法人税法34条2項参照),この中には,法人が役員に対し金銭を無利息又は低い利率による利息で貸し付けることにより役員が受ける経済的な利益が含まれるというべきである。そして,横井英樹は,同人に対する貸付金である本件仮払金等につき利息相当額の支払を免れており,原告から同額の経済的な利益の供与を受けているものということができる。右の利息相当額の経済的な利益は,本件仮払金等を元本として,これに対し一定の割合による利率を乗じて算出されるものであり,しかも単位期間毎に当然発生するものであって,その金額は元本となる本件仮払金等の額が時期によって変動することから一定不変ではないものの,臨時的に算定,支給されるものではなく,形式上定期の給与ということができるものであるから,右の経済的利益は横井英樹に対する役員報酬であると解するのが相当である。

(7) 原告が貸付金に対して通常収受する利息の割合は年8%を下らないことは,当事者間に争いがない。そうすると,少なくとも本件仮払金等のそれぞれの金額に年8%の利率を乗じて本件期間中の各月毎に算出された金額が,右各月毎の横井英樹に対する役員報酬額になる(ただし,右金額の算定方式は,当事者間に争いのない被告の主張1の(二)の(7)の括弧内に記載した方式によるものであり,昭和54年及び昭和55年の分についての算出根拠は別表六のとおりである。昭和56年の分については,その年を通じて本件仮払金等の額に異動がないため,これに対する1年分の利息171,188,045円を12等分した金額(ただし,端数の5円を8月以降の各月にそれぞれ1円ずつ割当て)が同年における各月毎の役員報酬額である。)。

(三)  右(一)及び(二)によれば,本件期間中の横井英樹に対する本件仮払金等に係る役員報酬額は,別表五の「役員報酬支給金額」欄の「認定利息」欄に記載の金額となり,これに当事者間に争いのない同「その他」欄に記載の金額を合算した同「合計」欄に記載の金額が本件期間中の同人に対する役員報酬総額である。そして,右金額に対する源泉所得税額が同表の「③に対する所得税額」欄に記載の金額となることは当事者間に争いがなく,これに当事者間に争いのない同人に対する役員賞与に係る源泉所得税額(同表の「⑤に対する所得税額」欄に記載の金額)を合算し,これから当事者間に争いのない納付済税額(同表の「納付済所得税額」欄に記載の金額)を控除した同表の「差引納付漏れ所得税額」欄に記載の金額が,原告が納付すべき本件期間中の各月毎の横井英樹に対する役員報酬等に係る源泉所得税額となる。

4  本件告知処分の適法性について

以上1ないし3によれば,原告が納付すべき本件期間中の各月毎の役員報酬等に係る源泉所得税額は,別表四の「税額合計」欄に記載の金額となり,これから第二次告知処分に係る源泉所得税額を控除すると,別表一の「異議決定後」欄に記載の金額となるから,これと源泉所得税額が同額の本件告知処分は適法である。

5  本件不納付加算税賦課決定処分の適法性について

本件告知処分を前提とした場合の不納付加算税の算定方法及びその算定方法によった場合の金額が別表二の「異議決定後」欄に記載の金額となることは当事者間に争いがないところ,右4のとおり,原告が納付すべき本件期間中の各月毎の源泉所得税額は本件告知処分で告知された金額と同一であるから,本件告知処分に係る不納付加算税額は同表の「異議決定後」欄に記載の金額となり,これと不納付加算税額が同額の本件不納付加算税賦課決定は適法である。

二  法人税関係

1  請求原因2の(一)ないし(三)(本件更正,本件過少申告加算税賦課決定及びこれに対する不服申立ての経由),被告の主張2の(一)(原告の業務内容等)の事実は,当事者間に争いがない。

2  本件事業年度の所得金額

(一)  原告の本件事業年度の申告所得金額が0円であることは,当事者間に争いがない。

(二)  加算項目

(1) 被告の主張2の二の(2)(加算項目)は,横井英樹に係る受取利息(同の(Ⅳ))及び過大役員報酬否認額(同)を除き,当事者間に争いがない。

(2) 横井英樹に係る受取利息について

前記一の3で述べたとおり,別表三に記載の本件仮払金等は原告の横井英樹に対する貸付金であるということができるところ,本件事業年度の期首における本件仮払金等の額は2,139,850,573円であり,これは同年度中増減がないので,右金額に当事者間に争いのない年8%の利率を乗じた171,188,045円(円未満切捨て)を,原告の本件事業年度の所得計算上,横井英樹から収受すべき受取利息と認定して収入金額に加算すべきである。

(3) 過大役員報酬否認額について

本件事業年度における原告の代表取締役に対する適正報酬額が年額24,000,000円であることは当事者間に争いがなく,原告の代表取締役である横井英樹に対する本件事業年度における役員報酬額は,前記一の3で認定したとおり,別表五(No.3)の「役員報酬支給金額」欄の「合計」欄に記載の金額を合計した182,160,885円と認められる。ところで,右金額は,被告の主張する計算においては,その全額が後記(三)の(2)で役員報酬としてひとまず損金(減算項目)に算入されるところ,この計算方式によれば,このうち適正報酬額を超える部分は法人税法34条1項の規定により損金に算入することができないものであるから,原告の本件事業年度における所得計算上,過大役員報酬額否認額として適正報酬額を超える158,160,885円を加算すべきこととなる。

(4) 右(1)ないし(3)によれば,加算項目の金額の合計は814,475,060円となる。

(三)  減算項目

(1) 被告の主張2の(二)の(3)(減算項目)は,横井英樹に係る役員報酬額(同④の(Ⅴ))及び繰越欠損金認容額(同⑥)を除き,当事者間に争いがない。

(2) 横井英樹に係る役員報酬額について

本件事業年度における横井英樹に対する役員報酬額は,前記一の3で認定したとおり,別表五(No.3)の「役員報酬支給金額」欄の「合計」欄に記載の金額の合計182,160,885円である。

(3) 繰越欠損金額認容額について

成立に争いのない乙第15号証及び弁論の全趣旨によれば,本件事業年度における原告の繰越欠損金額は74,412,797円となることが認められる。

(4) 右(1)ないし(3)によれば,減算項目の金額の合計は365,623,905円となる。

(四)  以上(一)ないし(三)によれば,原告の本件事業年度の所得金額は,448,551,155円となる。

3  本件更正の適法性について

右2で認定したとおり,原告の本件事業年度の所得金額は448,551,155円であるところ,これと所得金額が同額である本件更正は適法である。

4  本件過少申告加算税賦課決定の適法性について

本件更正を前提とした場合に原告が新たに納付すべきこととなる税額が188,391,300円になること,このうち重加算税賦課決定の基礎となる税額を除いた金額が185,304,000円となり,これを基礎とした過少申告加算税額が9,265,200円となることは当事者間に争いがないところ,右3のとおり本件更正は適法であり,したがって,過少申告加算税額が9,265,200円である本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

三  結語

よって,原告の本件各請求はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鈴木康之 裁判官 佐藤道明 裁判官 青野洋士)

〈以下省略〉

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